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中屋彦十郎薬舗による「尾山のくすり大将」第37号 2002年12月16日
加賀藩の秘薬(三)
加賀藩の秘薬(三)
精力剤は第8号まで記したので、しばらくお休みして中途になっていた加賀藩の秘薬を取り上げてみようと思います。
加賀藩には地黄煎町(じおうせんまち)というところがあって地黄を栽培し地黄煎飴をつくっていたことは前にも話をしました。
飴といっても現在のような浅田飴や南天喉飴のようなものではなく地黄を圧搾して汁を絞り出し、お湯の上で半減するまで煎じ詰めるのです、滓を絞り去り、さらに水分を蒸発させ堅飴のようにして仕上げるのです。
場合によっては水飴を加え黒い「おこしあめ」のような状態に作り上げるのです。これを数日放置すると、堅く固まるのでノミでおこして切って食べるのです。
滋養強壮によく夏の暑さあたりや夏ばてに効果があります。
民間の滋養強壮剤としては最も初期のものであろうと思います。
では武士階級や富裕な町人層はどうであったのか。漢方の古典である「傷寒論」が著されたのは紀元217年だから、当時すでに中国より輸入されて1,300年以上も経過していたことになる。
従って 戦乱で傷ついた武士の治療に、また武士、農民、町人を問わず病気になったときは漢方医の診断を仰いだり、薬種屋で薬を調合してもらったりしていたであろうことは想像に難くない。
「傷寒論」というのは漢方のバイブルのようなもので、どんな病気や病人のときはどんな処方をしたらいいのか克明に記述されている。
また薬の詳しい専門書である「本草綱目」全52巻も1,590年中国の李時珍によって著され、1607年には日本にも輸入されている。紀元500年の頃には「神農本草経集注」が陶弘景によって著されていることからも窺がえるように、漢方薬や民間薬それに各地の売薬なども特権階級ばかりでなく、広く一般民衆にも普及していたことが各種の資料によって知ることができます。
しかし、現在のような保険制度があったわけではないので、不治の病にかかったりしたような場合は治療を受けたくても、お金がなければ床に臥せっているだけという状態が続き、どこかから採集してきた薬草を煎じて飲んでいたというのが現実ではないでしょうか。
金沢の郊外に医王山(いおうぜん)という山がありますがこの山には150種以上の薬草が生えていると伝えられているように人々は山菜採りにいくかたわら、薬草も採集してきて、乾燥して蓄え病気の時に備えていたように思います。
人生50年といわれた時代ですから、病気で亡くなる人、怪我や戦いで亡くなる人など現在よりも遥かに弱肉強食の色彩が強く、体の頑健な人のみが生き残れたようです。
その後、医学の発達や社会の整備により、現在の平均寿命にまで伸展したわけですが、個人の病気に対する対応次第で長生きする人や早死したりします。
それは今も当時も変わりません。やはり健康で長生きするためにも、当時、どんな薬があったのかを調べてみるのも大切なことではないでしょうか。
治葛(じかつ)、烏頭(うず)、附子(ぶし)などは毒殺に用いられていましたが加賀藩士不破彦五郎の妻毒殺の件で本人の武士はもちろん、不破に薬を売った大阪屋という薬屋の主人も共犯者ということで死罪になっています。
妻女や店員三名も死罪になっていることは驚きを禁じえません。
薬局では鼠殺しの毒薬が近年までありましたが、鍵のかかった棚に保管するなど厳重に管理されていましたが、現在はもう製造もされていません。
ともかく、当時から毒薬の管理は武器の管理と同様に重大問題であったのです。
加賀藩の薬が飛躍的に発展したのは前田家五代藩主前田綱紀公(1643〜1724)の科学に対する実証的精神に負うところが大きいといわれています。
公は百万石の財を傾けて、本草学者を加賀藩に招聘したり、薬草を栽培させたり、各地の売薬を調査させたり、本草書を含めたような博物大事典「庶物類纂」1600巻の編集を行うなど、科学、文化の振興に莫大な財を傾けたのでした。
公が亡くなってから一気に加賀藩の財政は悪化が表面化したというほどですから元禄のバブルが崩解したとはいえ、いかにも豪快な文化に対する散財をしたということができそうです。
公は門外不出といわれた加賀藩の秘薬も広く藩民に公開しています。
藩としてそれなりの利益をあげて、財政に貢献させようとしたのか。
真意はわかりかねますが、次回から「秘薬の解明」を行っていきたい と思います。
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